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ものとりの日々

秋田市在住・小西一三の書きたいこと書くブログ

イカの沖漬け

 今年も行ってきました年末恒例の「スルメイカの沖漬け」作り。自宅近くの日本海じゃないよ。太平洋の三陸海岸、岩手県は山田町まで車で片道5時間もかけて行くんだから小西もバカだねえ。何故、わざわざアイスバーンの峠道二か所をハラハラしながら運転して行くかといえば、この時期、沖漬けに適した大きなイカが釣れるから、面白いからだ。山田町の漁師のNさんとは25年近くの付き合いがあり、毎年年末になると「小西さーん。今年はどうするの?」と電話がかかってくる。「お願いしまーす。出航は何時すか? 道路が悪くて時間に遅れたら、ボクにかまわず出航して下さい」と返事するのも毎年同じだ。

1227日、秋田は猛吹雪で岩手との県境を越えるまで時間がかかり、今回は6時間かけてやっと漁師さん宅に到着。自宅前に係留している10トンの漁船で午後3時に出航した。乗り込むのは船頭とその弟の機関士、助っ人の乗組員。全員地元の山田町で長年にわたって漁師をやってきた大ベテランだ〈ちなみに全員70歳以上〉。先の大震災の時は地震直後に兄弟で乗り込み、全速力で湾内から外海へ危機一髪の大脱出。沖で2日間過ごしたという。それまで十数隻あった山田湾のイカ釣り漁船は震災後残ったのは、この船を含め2隻のみ。こんな船にボクは乗り込んだのだ。

 太平洋に面した山田町は積雪はまったくないものの、沖の風は顔を針でチクチク刺すように冷たい。なぜそんな中でわざわざ寒風に耐えながらもスルメイカを釣り、「沖漬け」を作りに行くのか? それなりの理由はある。12月中旬から下旬、冬至の前後に三陸一帯で釣れるスルメイカは「冬至のスルメ」と呼ばれ、夏に釣れる「夏イカ」より身は厚くゴロ〈肝〉も大きくなっている。特にゴロはパンパンに太り、このゴロこそが「沖漬け」の味を大きく左右すると小西は思っている。日本海の夏イカでも作ってみたが、「冬至のスルメ」で作ったものとはまったく勝負にならない。

 といっても、この時期の大きなイカは自動イカ釣り機にはなかなか食いつかない。しかし漁師の操る手釣りの仕掛けにはバンバン食いついてくる。要するに、技が必要となる。ここが面白いのだ。この手釣りで使う仕掛けは今は亡き山田町の職人が作ったもので、現在は作り手がいない。ボクに言わせると、ただの金属棒にイカ針を付けただけの単純なものに見えるが、長さ、重さ、バランスが微妙なのだという。船頭と弟は作り手がいなくなることを見越して大量に仕入れて番屋に保管していたのだが、仕掛けは大震災で番屋ごと流されて、船に積み込んでいたものだけがのこった。船頭は震災後、真っ先に瓦礫の中からこの仕掛けを必死になって探したが、結局1本も見つからず。今は超貴重品になってしまった。

 昨シーズンまでは小西もこの仕掛けを使わせてもらっていたが、万が一、大きなイカがかかったショックで仕掛けを失うと大変なので、今シーズンは釣り具屋で市販されている普通の仕掛けを使うことにした。

 海上が薄暗くなってくると、発電機が回って集魚灯に灯りがともる。と同時に自動イカ釣り機がグルグルグルグル動き始める。たまに小さいイカがぽつぽつ揚がるが、大きいイカは釣れてこない。ところで普通スーパーなどで売っている大きいイカは1箱20匹入りのクラスのものが多い。小西が沖漬け用とするのは1箱12匹もしくは15匹いりのもの。とにかく、見た目に大きいイカをタレの入った容器にぶち込むのである。ついでに言っておくが、大きいイカは、はっきり言って刺身で食べても身は硬いだけで美味しいとは思わない。刺身で食べるなら、なるべく小さいサイズがいい。大きくて身の厚いイカは生干し、もしくは沖漬けが適していると思う。

ボクが乗船する前日は約100箱の水揚げがあったという。一番多いのは20入り。次いで25入り、12入りと15入りはそう多くはない。まあ一晩で2000匹以上のイカを釣った見当になる。このうち手釣りで揚げたものは約8割。ほとんどは3人が寒風吹きすさぶ甲板に立ち、仕掛けを操り釣ったものだ。ちなみに小西が昨シーズン乗船した時は80箱の水揚げ。ボクでも手釣りで10箱分〈約200匹〉は釣ったと思う。「小西さん、今日は調子よかったねえ」と船頭に誉められたものだ。

今回は最悪だった。最初から機械にはほとんどこない。それではと、いつものように集魚灯の灯りを暗くして機械をストップ。全員で手釣りを始めたが、ベテランにもほとんどこない。普通、集魚灯を暗くするとイカは水面近くまで浮上してきて手釣りの仕掛けにばんばん食いつくのだが、浮上してきた気配はまったくなし。それでも3人の漁師さんはたまに沖漬けに適した大きなイカが釣れると「小西さん、ほら、これ入れなんせ」と放り投げてよこす。ポツポツと沖漬けの容器にイカが入り始めた。タレは醤油、酒、みりんを適当に入れたもの。イカは容器の中でこのタレを吸い込むとギュッ、ギュッと鳴きながら苦しそうにタレを吐き出すので、タレが飛び散らないように、すぐに容器にふたをする。これの繰り返しだ。苦しみながら絶命したイカの足〈ゲソ〉はくるりと丸まっている。たまに市販されている沖漬けの中には足がだらりと伸びたものがあるが、あれは死んだイカをタレに漬けただけのもので、小西に言わせると沖漬けではない。生きたイカをすぐにタレに入れてこそ、本当の沖漬け。死んだイカを入れたものは、ただのイカの醤油漬けだ。

一回目の手釣りは全員惨敗だった。また一から出直しとばかりに集魚灯を再び明るくして、機械を動かす。この間、乗組員は船室で1時間ほど休憩。再び灯りを暗くして機械をストップし、二回目の手釣りが始まった。しかしベテラン連中でもなかなか釣れない。こうなれば小西はお手上げ。どうもイカが船の周囲に集まっていないようだ。そのうち風が強くなってきて、波しぶきが飛んでくる。イカは釣れないし、寒さと風が厳しい。寒さより何より、釣れない方が堪える。

午前0時前、「今日はもうだめだべ」と船頭の一言で操業打ち切り。前日までは釣れていたが、小西が乗ったらこれだもんな。申し訳ない。そういえば以前、小西は船頭の奥さんに「嵐を呼ぶ男」と笑われたことがある。小西が乗ればシケになる。「小西さんはシケを連れてくるからなあ」と機関長にも言われた。確かに小西が乗る時は風が強くなる日が多いと思う。

結局、沖漬けの容器に1215入りの大きなイカを40匹ほど詰め込み、箱詰めしたのは6箱。お土産に15入り1箱と25入り1箱を貰ったので漁協に出荷したのはたったの4箱。大きいイカは小西がほとんど貰ったことになる。漁師の皆さん、ゴメンナサイ。今シーズンの年末のイカ釣りは大不漁に終わってしまった。

容器に入れた沖漬けは秋田の庭の雪の中に埋め、味がしみ込むまで寝かせ、その後は冷凍保存中。市販のいいかげんな沖漬けでも1パイ700円近くはするから、小西の作った正直な沖漬けはどう安く見積もっても浜値で1000円はすると思っている。まあ、といっても、売ったことはない。あっちの友達に分け、こっちの彼女に配り、家族でたべるのは3、4匹程度。小西は余裕もないのに、何やってんだろね。バカだね。 

 

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大震災で岸壁が沈下し、大潮になると船の管理が難しくなるという

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自動イカ釣り機を動かし、船室で休む

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立派なイカでしょ。この容器2コにびっしりイカを入れた

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共食いでキズ付いたイカ。これは売り物にならない