友、遠方より自家用機で来る
「おう、小西、ワシや。元気か?」 浪速のおっちゃんから電話がきた。「はあ、一応元気ですけど」と応えると、「明日はヒマか?」とおっちゃん。「毎日ヒマですけど」と応えると、「じゃあ、明日、行くわ。到着時間は飛ぶ前に連絡するわ。じゃあな」。おっちゃんからの電話はいつもこうだ。
おっちゃんとは三十数年前に大阪で知り合った。複数の会社を経営している社長のはずだが、現在の業務内容はよく分からない。年齢もよく分からない。小西は興信所ではないので、つっこんで聞いたことはないし、知りたいとも思わない。
翌日の10月24日の午前中、また電話がきた。「おう、小西。秋田空港は改装工事中で駐機できんそうや。お前の家から大館能代空港は遠いんか?」とおっちゃん。「車で1時間半ほどですけど、来るんだったら迎えにいきますよ」と小西。「そんなに遠いんか。すまんな。じゃあ、行くで。2時間ちょっとで着くからな」
午後2時半頃、おっちゃんの小型飛行機が到着し、おっちゃんと奥さんが降りてきた。着ているものは小西と同じユニクロのチノパンに、これまた安そうに見えるデニムのいシャツ。奥さんも似たようなかっこうだ。どうみても30代の頃から飛行機を所有している社長には見えない。どちらかといえば、タコ焼き屋のおっちゃんだ。
夜はもちろん秋田市内の魚のおいしい飲み屋で一杯。「おう小西。今日、魚食ったから、明日は肉食いに行こう。札幌にな、朝鮮人がやってるジンギスカンの旨い店があるねん。生のラムをな、カンテキ〈七輪〉で焼いて食わせるねん。金の心配はせんでええ。ホテルもワシが予約するわ」とおっちゃん。さっそく奥さんがネットで店の近くのホテルを探したが、土曜日なので満室。結局、翌日、函館まで日帰りで「函館ラーメン」を食べに行くことにした。
大館能代空港から函館空港までは、おっちゃんの飛行機で約40分とか。10時頃には離陸。管制官とのやりとりはもちろん英語だ。自称、高卒のおっちゃんはぺらぺらしゃべっているが、一応大卒の小西には意味不明。若く見える奥さんはボタンを押して計器の数字を確認したりと、これまたかっこういいのである。おっちゃん夫婦は前の操縦席に座っているので、小西は4人分の座席を独り占め。これまた気分がいいのである。
白神山地を越え、岩木山を横に見おろし、アッという間に津軽海峡。「はーるばる来たぜ 函館~」と函館に到着。750円のラーメンを食べて、再び離陸。おっちゃん夫婦は小西を大館能代空港で降ろし、「小西、春になったらまた来るからな。それまで死ぬなよ」と捨て台詞を残し大阪まで帰って行った。
小西の友達はほとんどビンボ人だが、こんな酔狂な金持ちもいるのである。